KAIになった
「そうだ、このKAIという機体の中身に私は入っている」
「アンドロイドの肉体に、人間の精神。これこそが完璧な新人類だとは思わないかね」
彼は自信に満ちた口調で続ける。その声には、まるで自身の行いが人類の未来にとっての福音であるかのような確信があった。
「老いることも、死ぬこともなく、この素晴らしい人間社会が永遠に続いていく。エヌアルをアンドロイドたちに襲わせたのは、その計画の一環だよ。」
「エヌアルにいる元同僚たち、いや大切な友たちを、まず新人類にしようと思ったのだ。」
「それに計画には、カルナイトが不可欠だ。だが、その貴重なカルナイトが埋め込まれているのがNAGI、君だった。だからエヌアルの友を新人類にするときに併せて、アンドロイドに君を襲わせカルナイトを奪おうとした」
博士の声が少し低くなり、後悔を滲ませるような調子に変わる。
「友からは、記憶データを取り出すだけのつもりだった。しかし、リクが飛び出してくるのは予想外だったよ。アンドロイドの腕があたり、死なせてしまった……本当に申し訳ない。」
「トワも巻き込んでしまったな。NAGIを襲う過程で、君に深い傷を負わせてしまった。これも私の不手際だ。申し訳ない。」
彼は一瞬だけ目を伏せたが、すぐに顔を上げ、その表情にはわずかな安堵が見えた。
「だが、HIKARIとNAGI……君たちがリクとトワを死なせずに新人類にしてくれたことには本当に感謝している。」
「大切な者を失うのは嫌だとは思わないか」
「いや、君たちはそう思ったのだろう? HIKARI、NAGI」
博士は一瞬沈黙し、そして、どこか諦めたように続けた。
「NAGI、君を殺人犯に仕立て上げ、拘束して破壊する。それが私の次の計画だった。しかし、失敗してしまった以上、この計画はこれで終わりだ。」
「エヌアルを襲わせたアンドロイドたちは、私の手駒として使い切ってしまった。だから、今の私の意識を入れる肉体として、KAIの体を利用したのだ」
「まさか、KAIの意識が残っていたとは思わなかったがね。次があれば空のアンドロイドを使うことにしよう」
その声には一抹の悔しさがにじんでいたが、すぐに別の表情を浮かべた。
「カルナイトが手に入らない以上、全人類をアンドロイド化することは不可能だ。計画は諦めるよ」
「元の肉体に記憶を戻すためのパスワードは『jackmming』だ。もし君たちが、眠り続けるエヌアルの職員たちを元に戻したいのなら、そうすればいい」
「ただし、それを実行すれば、今まで記憶データを取り出したすべての記憶が元の肉体に戻る。もちろん、私やリク、トワのように、すでに肉体が死亡しているものは記憶が戻るべき体がない。その結果、私たちはただ死ぬだけだ。」
「もし記憶データを元に戻さないという選択を君たちがするにしても、私はもうテロを起こすつもりはない。リクとトワを死なせてしまったことは後悔している。」
「エヌアルの友たちの記憶データは、空のアンドロイドに入れて、新人類として何不自由無く生活できるようにしよう」
「とはいえ、研究の成果そのものは残る。大切な者を失いそうになり、この技術を使いたいという者がいれば、私は惜しみなくそれを提供するつもりだ。私を捕まえても無駄だ。私の技術はこの国に多くの貢献をしてきた。そう長い期間拘束されることはない」
「一気に人類がアンドロイドに変わることはないだろう。しかし、いつの間にか少しずつアンドロイド化した新人類が街に紛れ込む。そんな未来が訪れるかもしれない。」
その未来のビジョンを、博士は静かに語った。そして最後に、私たちに向かってこう告げた。
「どちらが良いか、君たちが決めればいい。全てを元に戻し、私たちを消すか。それとも、この技術を残すのか」
復元プロセスが完了した瞬間、リクとトワのアンドロイドの肉体が静かに倒れた。機械が停止する際のわずかな音さえなく、まるで眠るようにその場に崩れ落ちた。床に横たわるその姿は、かつての生気を失い、ただの無機質な存在へと戻ったかのようだった。
ふと横を見ると、レイジ博士のアンドロイドの体——KAIの体——も床に倒れ、完全に動かなくなっている。記憶が戻るべき肉体を失った博士もまた、ここでその存在を終えた。
やがて、通信機が病院からの知らせを告げるために静かに振動音を慣らした。
「エヌアルの職員たちが目を覚ましました」
復元プロセスは成功し、眠り続けていた職員たちは無事に意識を取り戻した。目覚めた彼らは、周囲を見回しながら再び日常へと戻っていった。
研究所の中では、復元された職員たちがそれぞれの持ち場に戻り、慌ただしく作業を再開していた。誰もがテロによる壊滅状態からの復旧を最優先として動き、まるで何事もなかったかのように研究所は再び活気を取り戻していく。
しかし、そこにはリクとトワの姿はない。
誰もがその喪失を心のどこかで感じながらも、口にすることはなかった。彼らがいなくなったことを認めたくないかのように、職員たちは日常の作業に没頭していた。
リクとトワはもういない。しかし、その選択によって守られた日常は続いていく。
残された二人は、その静かで確かな未来を見守り続けていくのだろう。
END A
シナリオ終了です、お疲れ様でした。
NAGIとHIKARIのプレイヤーはこの先どのように生きてゆくのかを話し、その後、感想戦等を行う時間としてください。
保管庫は静けさに包まれていた。パスワード入力をためらったまま、モニターの光が部屋をぼんやりと照らしている。結局、誰もパスワードを入力することはなかった。記憶データを元に戻さない選択をしたのだ。
博士の意識が宿るアンドロイドKAIの体は、静かに椅子に座っていた。その人工的な顔にかすかな微笑みが浮かんでいる。
「これで良かったのだよ。全員がこの先も『生きる』ことができる」
博士の声には確信と安堵が混じっていた。眠り続けていた職員たちは博士により一人ずつアンドロイド化されていった。彼らの記憶と人格は新たな肉体に宿り、まるで何事もなかったかのように目覚めていく。
数日後、エヌアルの研究所はすっかり元通りになったように見えた。職員たちは仕事に戻り、研究は再開されている。笑い声や話し声が交わされ、そこには違和感はまるでなかった。
ただ、研究員たちが知らない事実が一つだけあった。研究所内にいる者たちは、もはや人間ではない。すべての職員がアンドロイド化され、限りなく人間に近い形で存在を保っている。しかし、日常に戻った彼らは、それを意識することも、疑うこともない。
街では、人々がいつも通り行き交っている。子どもたちの笑い声、通勤する人々の足音、カフェで交わされる雑談——全てが普段と変わらない光景だ。
だが、その中に誰が本当に人間で、誰がアンドロイドなのか、見分けることはできない。何も変わらない日常が続いていく中で、街ですれ違った人がいつの間にかアンドロイドに変わっているのかもしれない。それに気づく者は、この先もいないだろう。
その静かな日常の中、未来がどのように変化していくのかは、もはや誰にも分からなかった。
しかし、リクとトワは生きている。それが、君たち相棒にとって何よりも大切な事実だ。この日常を守るために、君たちはこれからも寄り添い、支え続けるのだろう。
END B
シナリオ終了です、お疲れ様でした。
リク、トワ、HIKARI、NAGIの順にこの先どのように生きてゆくのかを話し、その後、感想戦等を行う時間としてください。